▼2005年に読んだ本
地下鉄(メトロ)に乗って 浅田次郎 講談社文庫

地下鉄(メトロ)に乗って 人は何かを得るために別の何かを失わなければいけないのだろうか?地下鉄がもし過去につながっていたら・・・、というタイム・トリップSF。一般にはこの作品はSFには分類されていないようだが、間違いなく良質のSFである。かつて豊田有恒や小松左京といった、SF草創期の作家たちが好んで書いていた題材とも言えよう。
 SFを読みなれた視点でみると後半の展開は予想通りだが、読後感はさわやかだ。同じタイム・トリップものとは言っても、ハリウッド映画のような安易なハッピーエンドにはならないからご安心を。
 主人公は過去を知った方が良かったのか、知らずに生きていた方がよかったのか?それにしても終戦直後の東京の様子は、まるで眼前に映像を見せつけられているかのように、その描写は素晴らしい。その後の浅田の活躍を予感させるに十分な作品。浅田ワールドの原点とも言うべき作品だ。後の作品を読んでからこの作品を読むと、いろいろな着想の原点を見ているようで面白い。

 [2005.9]
天切り松 闇がたり 浅田次郎 集英社

天切り松 闇がたり天切り松 闇がたり この夏、すっかり浅田次郎にはまってしまい、時を忘れて読みふけっていた。「天切り松 闇がたり」シリーズは現在4巻まで刊行されているようだが、たまたま図書館を訪れたときに第1巻と第2巻があったのでこの2冊を借りた。
 で、一気に読んだ。すでに老境に入った主人公「天切り松」が留置場で、同房の若いもんに語り聞かせる目細の安吉親分一家の大活躍。最初は語り手・天切り松の江戸言葉に少々とまどったが、それもすぐに慣れた。慣れると不思議と読みやすくさえある。言葉のリズムが実に巧みだ。また物語に登場する人物ひとりひとりが実に個性的で、浅田次郎の人物描写の筆力がただならぬものであることが、よく分かる。第1巻の後半からその筆は冴えに冴え渡り、暗く冷たい現代の留置場、欲望うごめく吉原遊郭、夜桜吹雪の大正ロマン真っ只中の東京、と舞台はめくるめく移り変われども破綻することはまったくなく、読み手はただただ、まるで浅田がぐいぐいとひっぱて行く大八車の上で物語を聞いているかのごとく、その揺れ加減がいたく心地いい。
 まだ3巻と4巻は読んでいないが、できればぶっ通しで読み続けたい。

 [2005.8]
鉄道員(ぽっぽや) 浅田次郎 集英社文庫

鉄道員(ぽっぽや) 表題作の「鉄道員(ぽっぽや)」をはじめ、「ラブ・レター」「悪魔」「角筈にて」「伽羅」「うらぼんえ」「ろくでなしのサンタ」「オリヲン座からの招待状」の8つの短篇を収めた作品。
 「鉄道員」は主演:高倉健、監督:降旗康男で映画化され多くの話題を呼んだので、ストーリーは良く知られていることだろう。鉄道員として不器用に、だが誰に恥じることもなく誇りを持って生きた一人の男の人生の、最後の瞬間を切り取った名作だ。短篇ではあるが、主人公の人生が奇跡によって鮮やかに浮かび上がる。「ラブ・レター」は不覚にも涙で文字が霞んで読み進めなくなってしまった。こんなラブ・レターが存在するとしたら・・・。もしかすると、こんな境遇の女性は日本全国どこの町にもいるのかもしれない。「角筈にて」は映画にしてみたい作品だ。その他、どの作品も粒ぞろいの、まさに珠玉の短編集と言っていいだろう。だがあえてこの中から3作品を選ぶとすれば、「鉄道員」「ラブ・レター」「角筈にて」となろうか。結婚して家庭を持ち、あるいは子供を持ち、そんな40代以上の人には特に涙腺を刺激する作品集かもしれない。一日一作品、ほぼ1週間で読んだ。

 [2005.8]
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